Kiyoji Otsuji
Photography Archive

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2023.9.4
レポート

「フォトアーカイブの新たな視座」を支えたDNPメディア・アートの技術

芳田賢明(株式会社DNPメディア・アート)

はじめに

 株式会社DNPメディア・アート(以下、DMA)は、武蔵野美術大学 美術館・図書館が企画・開催する、写真家 大辻清司にまつわる資料群「大辻清司フォトアーカイブ」(以下、大辻アーカイブ)を紹介する展覧会「生誕100年 大辻清司 眼差しのその先 フォトアーカイブの新たな視座」に、保有する「表現技術」を駆使し、展示用のモノクロプリントを制作・提供した。
 本プリントは、モノクロ・ネガフィルムを超高精細デジタルカメラで複写撮影し、精緻な画像処理を施し、オフセット印刷によって制作したものである。そのため、プリント技法の表記としては「オフセット印刷」になるのだが、雑誌や書籍などで一般的に利用されているオフセット印刷とは異なるものである。実物を見ていただければ、これまで持っていた「印刷物」に対する概念が揺らぎ、写真と印刷の違いとは一体何なのかと考えさせられるはずだ。
 弊社ではかねてより、絵画やイラスト、漫画の原画を中心に、高精細複写撮影・プリントによるレプリカ制作を行っており(この製品・サービスを「DNP高精彩出力技術 プリモアート」と称している1)、美術館の展示品になっているものもある。
 しかし今回制作したプリントは、「ネガは収蔵されているが、プリントは収蔵されていない」という作品である。つまりこれは、プリントのレプリカではなく、ネガから新たにプリントを起こしたものであり、「複製ではない展示用のオリジナルプリントをオフセット印刷によって制作した」ということになる。こういった試みはほとんど前例がないのではないだろうか。

本プリント制作技術の開発の経緯

 本プリント制作技術の開発には二点の背景がある。一つは、写真プリントの主流が銀塩からインクジェットに移行したものの、モノクロプリントに関してはまだその表現力に課題が残ると考えていること。もう一点は、製版・印刷のデジタル化や印刷物に掛けるコストの削減が進む中で、意匠性の高い印刷表現が行われる機会が減っていることである。こうした背景の中で、自社の画像処理技術と製版・印刷技術により、銀塩プリントに匹敵する表現力豊かなモノクロプリントを制作できるのではないか、という挑戦により本プリント制作技術は生まれた。

本プリント制作技術の採用の経緯

 弊社では、東京・市谷のDNPプラザを拠点に「表現工房」という取り組みを行っている2。これは、企業や教育機関との共創により、弊社の「表現技術」を活用し、写真家とともに新たな作品制作に挑戦し、展示・発信していくものである。
 もともと本プリント制作技術は写真家 大門美奈氏3の協力を得ながら開発したもので、そのお披露目展示を、大門氏の撮り下ろし作品により表現工房第3回企画として実施。DNPプラザに加え、ライカGINZA SIX、ライカ大丸心斎橋店にて写真展を開催した4

表現工房第3回 大門美奈写真展「新ばし」展示風景(DNPプラザ)

 この展示を美術館・図書館の担当者や、大辻アーカイブを監修されている九州産業大学芸術学部の大日方欣一教授がご覧になり、「この技術を展覧会で活用したい」と連絡いただき、展覧会に出品する大辻清司の写真作品53点のプリント制作の依頼を受けた。

本プリントの技術的な特長

 本プリントは主に以下の特長を持っており、インクジェットプリントや銀塩プリントとも異なる価値を提供する。

[均一な光沢]

 印刷によるプリントは紙の上にインキ層を形成するため、紙の光沢とインキの光沢の差が出てしまう。そこで本プリントは、プリント後にニス層を形成させることで、光沢が均一になる。

[均一な色味]

 カラー表現を前提とした印刷によるプリントは、カラーインキを併用してモノクロを表現するため、プリントごとの色味のバラツキや、絵柄の濃度域によって色味のバラツキが出ることがある。本プリントは、カラーインキを使わず、作品に合ったグレーインキを独自に調合・作成してプリントするため、色味が均一になる。

[シャープな描写]

 本プリントが採用しているオフセット印刷の解像度は他の印刷方式や銀塩プリントよりも高く、画像の高解像度処理も行うことで、細部までシャープな描写が得られる。これは画像の解像度を疑似的に上げたような不自然なシャープさではなく、画像そのものが持つシャープさを忠実に表現するものである。

[豊かな階調]

 本プリントは独自の製版設計を行っており、使用するインキとのマッチングも取ることにより、滑らかなグラデーションの中に広いダイナミックレンジ5と高いコントラストを両立している。例えば、通常の印刷であれば潰れてしまうようなシャドー部も、本プリントではしっかりとした締まりがありながらもシャドーのディテールが生きている。

 なお、これらの特長を持つということは、プリントする画像への品質要求度も高くなる。モニターやインクジェットプリンターでは視認できないようなディテールやトーンをも表現するため、フィルム撮影では現像済みネガの複写、デジタル撮影ではRAW現像6の段階から慎重な画像処理が必要になる。逆に言えば、ネガやRAWデータ本来のポテンシャルを最大限引き出すことのできるプリントだということになる。

制作工程(1) ネガの撮影

 もともと大辻アーカイブには所蔵ネガフィルムのスキャン画像が存在しており、その画像からプリントを制作する方法もあった。しかし、出来得る限りベストなプリントを制作したいということで、ネガの画像化から弊社で行うこととなった。通常、美術館に収蔵されているネガを外部に貸し出すことは稀であり、信頼して任せてくださったことに感謝したい。
 ネガの保管と取り扱いには細心の注意を払い、傷や汚れなどの状態の確認、記録も行い、高度なセキュリティ管理のなされた作業室で複写撮影を実施した。
 かつてフィルムのスキャニングには、透明な円筒に写真フィルムを巻き付けて高速回転させ、真空管で読み込む「ドラムスキャナー」という機器を用いていた。

 しかし現在ではこういったスキャナーは製造されておらず、機械の維持管理も難しくなり、品質を確保した状態でのスキャニングができなくなってしまった。しかしその一方で、デジタルカメラの撮影品質が非常に高まり、複写撮影による画像化がスキャニングの代替として確立できるようになってきた。
 実際の撮影は、画素数が1億を超える中判デジタルカメラを使用し、RAWデータで行った。高演色LED照明を光源に、ネガの平面性を保って複写撮影ができる什器を用いた。ネガフィルムが持つ階調情報の幅が広いため、少しも取りこぼすことのないよう、カメラのダイナミックレンジや露出も慎重に設定している。レンズについても、解像力や収差などの性能を精査し、最適な機種選択とF値の設定7を行っていることは言うまでもない。

制作工程(2) 画像処理

 撮影後はRAW現像を行い、デジタル画像処理によるネガポジ反転を実施。単に反転するだけでは適切なトーン特性を得られないため、カラープロファイルや階調再現の設定も独自に行っている。

 反転後は、まずアーカイブ画像を基準にトーンを作成する。これは、ネガの階調をすべて入れこんだ超軟調の画像にLUT8を当てていくイメージに近い。一方で、これは暗室での紙焼き作業をそのままデジタルで行うような内容でもある。まずは印画紙の号数を決めるように基本となるトーンを設定し、その後、覆い焼き・焼き込みを画像上で行っていく。これらは画像処理としては強烈な内容になるため、この過程でバンディング9などの画像劣化が発生しないよう処理している。

 トーンを作成した後は、ネガの傷や汚れの修復を画像上で行っている。今回の作品では、特に35ミリのフィルムにおいて状態のよくないものもあり、相当の時間をかけて修復している。それはフィルムの粒子を一つ一つ描き直していくような作業であり、イメージとしては印画紙に対するスポッティング10に近い。

制作工程(3) オリジナルプリントの検証

 プリントの制作に際しては、そのリファレンスとして、収蔵されているオリジナルプリントを拝見した。

オリジナルプリント

 イメージングディレクターやプリンティングディレクターだけでなく、実際に画像を調整するレタッチャーや、実際に刷りを行う刷り手も同行し、プリントのトーンや風合い、雰囲気を目に焼き付けるとともに、必要に応じ記録撮影や、グレーチャートや特色チップとの照合・記録を行った。
 また同時に、プリント用紙や加工のサンプルを持ち込み、オリジナルプリントの光沢感や白地の色と照合し、最も質感や風合いが近くなるものを選定している。オリジナルプリントにはバライタ印画紙11のプリントもRC印画紙12のプリントもあったが、RCプリントの光沢はかなり強く、その質感をどこまで再現できるかもポイントであった。

サンプルプリントとオリジナルプリントの比較

制作工程(4) 頭出し

 トーン作成の後は、一旦「頭出し」を実施した。全53点を一気にプリントするのではなく、代表的な絵柄数点を先行してプリントし、オリジナルプリントと見比べる。ここには大日方教授にも同席いただき、本番プリントの方向性を検討した。

テストプリントとオリジナルプリントの比較

 プリントは基本的に画像データの通りに表現されるよう設定しているが、実際に本番の紙で表現されたときの微妙な印象の違いなども把握するとともに、大日方教授から「大辻像」や大辻作品の世界観などについても伺った。
 本番に向け、この「頭出し」で得られたフィードバックを各作品画像に反映させ、画像が完成となる。

制作工程(5) 分解

 印刷はいくつかの版の刷り重ねで表現する仕組みになっており(一つの版で単色を表現することもある)、一般的な印刷では、「色の三原色」である藍・紅・黄・墨(CMYK)の4色の版を刷り重ねてフルカラーを表現している13。「分解」という作業は、原稿(画像を含む)の色をこの印刷版に応じて振り分けること、まさに色を分解するということである。

 モノクロ写真の印刷もCMYKの4色をバランスよく重ねることで可能であるが、カラーインキを用いるため、グレーの色がブレたり、明るいところと暗いところで色が違って見えるといったことが起きてしまう。そこで、モノクロに特化した印刷方法として、無彩色のインキだけで刷り重ねる方法がある。本プリントでは、グレーと墨の2色の版を刷り重ねて表現しており、このような手法は「ダブルトーン」とよばれている。

 今回行ったのは、画像上のトーンを2版に分ける分解作業であるが、ここにも独自性がある。通常のダブルトーンでは印刷の濃度を出すことに主眼を置いた分解が行われるが、本プリントでは濃度よりも階調性を優先した分解を行う。具体的には、グレー版で写真の明るい部分を表現し、墨版で写真の濃い部分を表現するように分担することで、通常の印刷よりもさらに細かな階調表現ができる。さらに、明るい部分に墨版を入れないようにすることで、明るい部分の網点14がほとんど目視できないため、ザラツキ感が出ない。こうした工夫により、従来の印刷物を超える豊かな表現を実現させている。

制作工程(6) 刷版

 これで印刷版を作成するための画像処理が完了した。次はオフセット印刷の版である、刷版(さっぱん)の作成工程となる。オフセット印刷の刷版はPS版(ピーエスばん)というアルミ板を用いたものになっている15。未露光のPS版に網点化された画像をレーザーで露光し、現像処理をすることで版になる。

PS版

 オフセット印刷は「平版(へいはん)印刷」という種類の印刷で、ハンコのように絵柄部分が凸状になっていたり、逆に凹状になっていたりもしていない、平らな版を使う。平らな版でどうやって刷るのかというと、水と油の反発作用を応用して、絵柄部分にだけインキが付着する仕掛けになっている。これは版画のリトグラフと同じ仕組みである16
 この刷版の作成工程まではフルデジタルである。光をデジタルカメラで取り込み、デジタル上で画像処理を行い、最終的にまた写真の原理を用いて版を作成している。つまり、実施している作業内容は、印刷というより写真制作なのである。

制作工程(7) 印刷

 ここから一転してアナログの世界に入る。
 プリントはオフセット印刷によるものだが、雑誌や書籍を大量生産するような印刷機ではない。先にリトグラフを例に挙げたが、まさに職人が版画を刷る機械を想像してもらえたらと思う。大きな音を立ててシリンダーが高速回転するような機械ではなく、小さなローラーがゴロゴロと転がって一枚ずつ刷っていくような機械である。
 微妙な色合いと明るさ・濃さを表現するグレーインキはオーダーメイドである。それも複数の材料を刷り手が混ぜ合わせて作る。「制作工程(3)」で紹介した、オリジナルプリントにグレーチャートを照らし合わせて決定した、そのグレーを目指して調合するのである。

調合したグレーインキ

 はじめは既存の特色チップ(色見本)を基準に作成するが、そこからさらに追い込んでいくため、既存のどんな特色見本帳にも存在しない、このプリントのためのグレーだ。見本帳にない色のため、調合比率のガイドもなく、最終的には刷り手の中にあるオリジナルプリントの記憶が頼りだ。ほんの少しの混合で大幅に色が変わるため、慎重な調製を行った。
 インキが準備できたら、ヘラを使って手作業でインキを印刷機に入れ込んでいく。均一に入れればよいということではなく、絵柄が濃いところには多めに、明るいところには少なめに入れる。そのバランスが狂えばトーンは崩れ、プリントの汚れの原因にもなる。
 「印刷はスピード勝負」と刷り手は話す。この印刷は水と油の反発作用を用いていると説明したが、時間をかけてダラダラやっていると、インキと水が混ざって乳化を起こし、刷りの品質が低下してしまう。刷りについては、手間と時間を掛けて良いものをつくるのではなく、ツボを押さえた的確な仕事を素早くこなすことが大事なのだ。
 しかし印刷に焦りは禁物だ。プリントは非常にデリケート、乾燥を怠れば汚れや品質の低下を招き、少しでも雑に扱えばすぐに傷や折れが生じてしまう。素早く、しかし焦らず、丁寧に。これが鉄則だ。暗室作業とどこか共通するものを感じないだろうか。

複数の版を刷り重ねる位置がピッタリ合っていなければシャープなプリントにならない。ルーペでしっかり確認する。

 品質管理は技だけが全てではない。印刷濃度、網点の形状やふくらみ具合、湿度、温度など、あらゆる数値で管理する。また、材料の微妙な差がプリントの仕上がりに影響を与えるため、インキの作り方や管理、用紙のロット管理など、原理原則に基づいた繊細な心配りが必要だ。
 数値化できる部分とできない部分、両方をしっかり押さえてモノづくりをするというのが、テクノロジーを用いて表現を行う写真にも印刷にも共通した点であろう。

制作工程(8) 加工、断裁

 印刷が終わると、次は加工の工程となる。刷り終わったプリントに極厚のニスを引く。これがいわば「印刷物」が「写真」に変わる瞬間だ。この加工によって一気にプリントの見え方やモノとしての印象が変わる。表面の均一な光沢感、黒の締まり、そして、オモテ面の滑らかな質感と裏面のザラっとした質感の同居。それがこのニスによって生まれる。まさに最後の艶出しかのように、丁寧に一枚ずつ加工をかけていく。ここで失敗すれば刷版からやり直しである。

 そして断裁。多くの印刷物と同じく、トンボとよばれる目印を基準に断裁機で切断していく。カットされた紙に焼き付けるのではなく、大きな紙に刷って切り出すという、ここはあくまでも印刷のセオリーに則っている。というのも、刷った後で切ることにより、紙の周辺の劣化の回避や、裁ち落としのプリントを綺麗に作ることができるメリットがあるからだ。余白の精密な位置出しも、後から切ることで可能になる。

制作工程(9) 確認

 プリントの完成後、まずは社内での確認を行う。制作関係者が集まり、プリントをテーブルに並べたり壁に貼ったりして、見る距離もいろいろと変えながら、汚れなどが入っていないかはもちろん、意図通りのものに仕上がっているかを確認する。この時点で問題があれば躊躇なく作り直す。
 手前味噌で恐縮だが、この確認においていつも驚嘆の声が上がる。開発にあたった私ですら、毎度その品質に驚いてしまうのだ。理屈では理解しているはずの仕上がりではあるのだが、実際にそれを目の当たりにすると、どこか理屈を超えた感情に襲われる。プリントに物質感があるとか、プリントの表情が豊かであるとか、どうしてもそんな曖昧な言葉になってしまうのだが、何か直接心に飛び込んでくるような印象を受けるのだ。

大日方教授による最終確認

 社内確認を終え、大辻アーカイブ監修の大日方教授の確認となる。自信をもっての提出ではあるが、やはり緊張が走る。じっくりと見ていただき、結果は全点一発OK。もはや教授も、プリントの品質についてよりも、作品そのものについてお話しされていた。これはつまり、ストレートに作品に向き合えるだけのプリントができているということなのだろう。技術が表現を邪魔することなくしっかり支えるという、技術のあるべき姿を体現させることができたのではないだろうか。

「フォトアーカイブの新たな視座」に対する弊社の考え方

 今回、武蔵野美術大学 美術館・図書館が掲げた「フォトアーカイブの新たな視座」に対して、弊社として少なからずお手伝いできた点として、印刷技術を用いた「ネガからのモダンプリントの制作」における可能性の提起があると考えている。
 通常、収蔵ネガから展示プリントを制作する場合、銀塩のプロセスで印画紙にプリントすることを考えるだろう。しかし、現在残されている印画紙で納得のいく表現を行うのは無理があるとする声も少なくない。また、プリントが細かな暗室ワークにより生み出されることを考えれば、単にネガをストレートに焼き付ければよいわけではなく、場合によっては暗室での作り込みに限界が出てくる可能性もある。そういった点で、今回のような手法が今後のモダンプリント制作の一つのあり方として提言できると考えている。

収蔵ネガの「デジタルリマスター」

 収蔵ネガを従来の画像アーカイブの解像度を超える高精細な画像化を行うことで、コレクションの概観だけでなく、作品一つ一つを細部まで観察することが可能になり、高解像度のプリント制作や大型プリントの制作も可能になってくる。またこの画像化に伴い、暗室作業では難しい細かな覆い焼き・焼き込みや、微妙なトーン形成が可能だ。そして、ネガにある傷や汚れなどを、アナログでの写真修整よりも圧倒的に自然に、美しく修復することができる。まさにこれは写真の「デジタルリマスター」といえるものである。ネガが残っているからこそ、最新のデジタル技術と組み合わせ、新たな像を立ち上げることができる。これが、収蔵作品の新たな楽しみ方や解釈を促すものになるのだ。

モノクロプリントの新たな選択肢

 ここまでの説明であれば、そういった画像からインクジェットプリントを制作するのでも良いのでは? と考える向きもあるだろう。もちろんそれも一つの答えだ。問題は何を重視するかである。均一な色味、均一な光沢感を求める場合や、特にオリジナルプリントと並べて展示する場合においては、プリントそのものに違和感がないことや、存在感や物質感が銀塩プリントに負けないことが必要になってくる。その場合においては、やはり本プリントが持つ表現力に大きなアドバンテージがある。それは何より、展覧会をご覧になった方であれば納得いただけることと思う。
 ここまで触れてきたようなことは、今回のように収蔵品としてアーカイブされたネガに対してだけではなく、現在進行形で表現活動を行っている写真家についても言えることである。「撮影・現像済みのネガがあるものの、いま手に入る印画紙や利用できる設備では作品性を追求しきれない、イメージ通りのプリントができない。かといってインクジェットプリントでも十分でない」といった声をしばしば耳にする。それはモノクロ表現において特に顕著で、「モノクロネガ作品の回顧展をインクジェットプリントで実施したが、納得のいく品質を出せず悔しい思いをした」という声を伺ったこともある。そういった、品質にこだわりを持つ、「本物」を知る写真家にとって、本プリント制作技術は一つの希望になるのではないかと自負している。

おわりに

 現代の写真表現において大切なことは、選択し得る技術の中から、表現したいことにとって最適な、必然性のあるものを選び、組み合わせることである。その点において、写真と印刷、アナログとデジタル、古典技術と最新技術といったカテゴライズを超越した本プリントの制作手法は、「フォトアーカイブの新たな視座」に対して最も理にかなったものだったのではないだろうか。
 今回の本プリントの展示が一過性のものとして忘れ去られることなく、プリントにおける写真表現の可能性や、今後の写真と印刷のあり方やその関係性を改めて考える契機になれば幸いである。

  1. https://www.dnp.co.jp/biz/solution/products/detail/1193231_1567.html
  2. https://dnp-plaza.jp/co-creation/hyogen-kobo/
  3. https://www.minadaimon.com/
  4. https://www.dnp.co.jp/news/detail/10162422_1587.html
  5. 表現できる明暗の範囲のこと。
  6. RAW(ロウ)データとは、デジタルカメラで撮影した生のデータであり、そのままでは画像として使用できない。このRAWデータに対し、色や明るさなどを設定し画像化することをRAW現像という。
  7. レンズの絞りをどの程度絞るかの設定のこと。この設定によりレンズの描写性能が変わる。
  8. ルックアップテーブルの略。画像・映像の階調変換を行うためのデータ。動画制作ではよく用いられる。
  9. 階調(グラデーション)が滑らかでなく、段差になって表現される現象のこと。
  10. モノクロ・ネガフィルムからアナログ工程でプリントを焼き付けた際、ゴミ等の付着によって生じた白抜けを、筆を使い墨などで点描しながら埋めていく作業のこと。
  11. モノクロ印画紙の種類の一つ。紙の質感、風合いがありながらも表面に適度な光沢感がある。原稿ではなく作品としてプリントされる際によく用いられる。
  12. 現在主流の印画紙。樹脂でコーティングされており、光沢感がある。カラープリントでよく目にする光沢印画紙は基本的にRC印画紙である。
  13. 参考…http://zokeifile.musabi.ac.jp/減法混色/
  14. 多くの印刷は細かな点の大小や粗密で濃淡を表現している。その点のこと。
  15. 参考…http://zokeifile.musabi.ac.jp/アルミ板/
  16. 参考…http://zokeifile.musabi.ac.jp/平版/

芳田賢明(よしだ たかあき)
イメージングディレクター/フォトグラファー
DNPメディア・アート所属
DNPグループ認定マイスター
日本写真芸術専門学校非常勤講師
写真制作ディレクターとして写真集やアート分野で活動。
フォトグラファーとしてはポートレートや都市のスナップを中心に撮影。
共創により写真を中心とした作品やコンテンツの制作・展示を行う「表現工房」のプロデューサーとしても活動中。
執筆も多数、著書に『誰も教えてくれなかった デジタル時代の写真づくり』(印刷学会出版部)がある。