大辻清司は1950年代初頭より『美術手帖』、『みづゑ』、『リビングデザイン』、『新建築』など出版メディアでの撮影仕事を手掛けるようになり、1956年には新潮社と『芸術新潮』の嘱託カメラマンの契約を結びます。『芸術新潮』では演劇をはじめとする舞台芸術を撮影する機会にたびたび恵まれました。大辻は卓越した撮影技術により、舞台上の場面を切り取るだけでなく、俳優たちの繊細な表情や俊敏な動き、その陰影をも写し取ることに成功しています。文学座や俳優座など新劇の舞台公演、俳優たちの素顔、伝統と前衛のクロスオーバーを追及した武智鉄二の演出作品、邦正美による「舞踊の美学」、舞踏家土方巽のデビュー作「禁色」稽古風景ほか、1950年代の舞台上で繰り広げられた光景が、時空を超えてよみがえります。
(大日方欣一「ネガフィルムの中の劇1955―60:大辻清司と舞台芸術」、村井威史「『大辻清司アーカイブ』における研究」を収録)