武蔵野美術大学 美術館・図書館が所蔵する「大辻清司フォトアーカイブ」は、写真家大辻清司が生涯にわたって制作した写真プリントやその原板を含む撮影フィルム、それらの裏付けとなる作品掲載誌、思考の原点となった旧蔵書のほか、撮影機材や暗室道具といったモノ資料も含まれており、ひとりの写真家の創作活動をほぼ網羅する、唯一無二のコレクションです。概要は、次のとおりです。
これら資料の物理的な整理/保存にとどまらず、内容を明らかにする調査研究にも積極的に取り組んでいます。寄贈資料の御披露目とアーカイブ調査の中間報告的な機会として2012年に展覧会「大辻清司フォトアーカイブ:写真家と同時代芸術の軌跡1940―1980」を開催。2016年には写真プリントの整理研究の成果を『大辻清司:武蔵野美術大学 美術館・図書館 所蔵作品目録』に編纂して発表しました。
大辻清司は、自身の作品制作と並行した出版メディアでの撮影仕事を通じて1950年代以降の文化の諸相を記録しており、史料的価値の高い映像ドキュメントが膨大に残されています。しかし、当時の出版メディアではフィルム原板を印刷原稿として扱うこともあり、撮影カットの多くはプリント作品として紙焼きされていません。つまり、大辻清司の仕事を正当に評価するためには、写真プリントだけでなく、撮影フィルムの全容を明らかにすることが重要です。そこで、膨大な撮影フィルムを作品主題に鑑みたテーマで掘り下げて7コマ単位で考証し、その成果を『フィルムコレクション』と題する目録シリーズにまとめ、現在までに7冊を刊行しています(以後続刊)。
寄贈受入の当初から監修を担当する大日方欣一氏との共同作業で運用を検討し、アーカイブの形成、保存、研究上の活用に取り組んできました。写真の表現者として、同時代芸術の目撃者として、写真教育の実践者としての、大辻清司の制作と思考が辿った軌跡を後世に伝えていくことと同時に、写真アーカイブにどのような在り方が可能であるのか、新しい価値創造への契機をどのように提起できるかを探りながら、今後もアーカイブのさらなる活用を推進していきます。
武蔵野美術大学 美術館・図書館は、武蔵野美術大学における教育研究活動の中核拠点として1967年に開館した「美術資料図書館」を前身とします。〈書籍だけでなく「モノ資料」も収集する〉という方針により、一般的な大学図書館とは異なり、美術館の機能も併せもつ施設として出発したことが最大の特色です。2010年、現在の図書館棟の開館を機に「美術館・図書館」に改称、2011年には美術館棟もリニューアルオープンしました。これにより開館当時から続く図書館と美術館の機能融合の伝統をさらに強化し、博物館機能を有する民俗資料室、映像資料室であるイメージライブラリーを合わせた四つの部門で組織する、多様的な総合施設として再出発しました。各部門の所蔵資料の活用をそれ単体で完結させるのではなく、体系立てて組織化し、補完し合い、またそれらの重なり合いから新たな資料価値を見出していくアーカイビング展開をおこなっています。美術/デザインに特化した専門図書館として、領域を横断する作品資料の調査研究基盤が充実していることも大きな特徴といえます。
当館が所蔵する5万点を超える近代デザイン資料のうち、視覚メディアである写真の主なコレクションには、本学元教員の新正卓と山崎博のプリント作品、石元泰博のカラー多重露光作品、そして「大辻清司フォトアーカイブ」があります。